訪問介護士がやってはいけないことって何?頼まれたときの対処法とは?

2023.01.30掲載
介護お役立ち情報

更新日:2023/1/30

訪問介護士がやってはいけないことって何?頼まれたときの対処法とは?

「訪問介護士として働き始めたものの、やっていいことといけないことがわからない」
「本当はやっていけないことなのに職場ではやっているけどどうすればいいの?」

上記のような悩みを持ちながら訪問介護士として働いている方は意外にも多いものです。
介護サービスでのやっていいこととダメなことは線引きが難しく、判断に迷ってしまうことは多々ありますよね。

記事では、介護士のできることとできないことに関する具体例やできないことを頼まれた場合の対処法などをお話しします。

本章を読むことで、介護サービスに関する正しい知識とサービス外のことを頼まれた場合の解決策を身につけ、自信を持って仕事に励むことができるようになります。

 

訪問介護の現場でやっていいこと、悪いことって何?

訪問介護士の仕事には身体介護サービスと生活援助サービスがあります。

それぞれの仕事内容は厚生労働省による「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分について」により明確化されているものとなります。

老計第10号 訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について

上記により訪問介護士としてできる仕事の範囲は特定されているため、やっていいことといけないことが存在するのです。

しかし利用者さんの中には、訪問介護士をなんでも頼めるお手伝いさんのように勘違いされてしまう方もいます。

ときには介護士が訪問中に介護保険サービス外のことも頼んでくることがあります。

実際、訪問介護をしていた私自身も利用者さんから業務外の頼みごとをされたり、提供時間を過ぎてもお茶を飲んでいくよう促されたこともありました。

利用者さんとの信頼関係を崩さずに頼み事をお断りするためには、訪問介護士自身ができることとできないことを明確に理解しておくことがおすすめです。

 

身体介護におけるやっていいことと悪いこと

身体介護とは、ADLやQOLの向上を目的に利用者さんの身体に直接触れて行う介助を指し、具体的には入浴介助や排泄介助などが挙げられます。

身体介護と医療行為の線引きは難しいものです。

介護士の曖昧な認識をクリアにするために厚労省より発表されたのが、2005年の医師法17条による介護サービスの区分けです。

医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)(◆平成17年07月26日医政発第726005号)

上記の内容を踏まえ、下記に身体介護におけるやっていいことと悪いことの事例を紹介します。

サービス内容

できること

やってはいけないこと

医薬品の使用介助

・皮膚への湿布貼付
・薬剤の点眼
・坐薬の挿入
・鼻腔粘膜への薬剤噴射
・軟膏の塗布
・軽い切り傷や擦り傷、やけどなどの処置
・インスリンの自己注射を見守る

・褥瘡などの処置(傷の状態によって専門知識を要する判断や技術が必要な場合)
・インスリン注射を職員が実施する

測定介助

・水銀、電子体温計での脇下体温の測定
耳式電子体温計での外耳道体温測定
・自動血圧測定器での血圧測定
・酸素飽和度測定のためのパルスオキシメーター装着

・水銀血圧計での血圧測定

排泄介助

・トイレ誘導、見守り
・オムツ交換
・浣腸(市販のディスポーザブルグリセリン浣腸器なら可)
・自己導尿のためのカテーテル準備や姿勢の保持介助
・ストーマ装具のパウチにたまった排泄物の除去

・ストーマ装具の交換
・導尿の実施?
・摘便
・血糖の測定

服薬介助

・服薬の見守り
・一包化薬の内服介助(舌下錠も含む)

・内服薬の指導や仕分け

整容介助

・洗面介助
・整髪介助
・爪切り、ヤスリがけ
・口腔ケア
・耳垢除去

・理髪
・耳垢塞栓の除去
・爪に異常や炎症がある場合など専門的知識を要する場合の爪切り、ヤスリがけ
・重度の歯周病などがある場合の口腔ケア

通院介助

・車の乗り降りの介助
・病院までの移動介助
・病院内での必要に応じた介助(排泄介助や行動見守りなど)

・病院内での付き添い(介護を要する場合を除く)
・利用者さんや介護士の自家用車での通院介助

また、2012年4月より介護福祉士や一定の研修を受けた介護士は、喀痰吸引と経管栄養を医療的ケアとして利用者さんに提供できるようになりました。

喀痰吸引等の制度について

注意したいところは介護福祉士試験に合格すれば上記のケアができるようになるわけではないという点です。

平成29年以降の介護福祉士試験における実務者研修のカリキュラムの中には、医療的ケアという科目が含まれており、たんの吸引や経管栄養についての学習があります。
しかし、現場で実際に上記のケアができるようになるには、実地研修を受ける必要があるのです。

実地研修の要件を満たしていないにもかかわらず痰の吸引や経管栄養などを職場から要請された場合、うかつに行ってしまうと違反行為となってしまいます。

上記の場合には正しい判断のもと断る勇気が必要です。

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生活援助におけるやっていいことと悪いこと

生活援助の場面においても、利用者さんに無理なお願いをされることが多くあります。

できることとできないことの認識が曖昧になりがちな事象を下記に紹介します。

介護の内容

できること

やってはいけないこと

調理

・利用者さん分の調理
・上記の配膳や後片付け

・利用者さんの家族分の調理
・おせちなどの特別な調理

洗濯

・利用者さん分の洗濯(手洗い含む)
・上記の干し、取り込み、収納、アイロンがけなど

・利用者さんの家族分における洗濯一連作業

掃除

・居室、トイレ、浴室など利用者さんの生活に関わる部分の掃除
・ゴミまとめ、ゴミ出し

・利用者さんの家族の部屋掃除
・草むしりやガーデニング
・大掃除に該当するもの(ベランダ掃除や窓拭き、換気扇や空調の掃除など)
・家具の配置換え

買い物

・日常品の買い物(食料や消耗品などの購入に限る、生活圏内の店舗を使用する)
・公共代金などの支払い
・薬の受け取り

・遠方での買い物
・嗜好品の買い物(タバコや酒など)
・ギフト、贈り物などの買い物

外出支援

・通院介助
・公共サービスの申請
・役所などへの届け出同行
・選挙や納税への同行
・日用品における買い物同行
・生活費引き出しにおける金融機関への同行

・娯楽目的の散歩
・美容院などへの同行
・墓参りや法事などの同行
・生活費など引き出しの代行

その他

・衣服の整理
・衣服の補修
・布団カバーやシーツなどの交換
・免許証の更新同行
・住民票受け取りの代行

・話し相手になる
・ペットの世話
・利用者さんからのおもてなしを受ける

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利用者さんからできないことを頼まれたときの上手な断り方とは?

利用者さんからできないことを頼まれたときの上手な断り方とは?

契約時に介護士が提供できるサービスについて利用者さんにお知らせしていても、業務外のことを頼まれた場合、優しい介護士さんは困惑してしまいますね。
上記の場合、大切なことは鼻から利用者さんを否定するのではなく、困っていらっしゃる利用者さんの気持ちに共感した上でお断りすることです。

「介護保険サービス適用外のことはできません」とつっけんどんに返すことは簡単ではありますが、それでは利用者さんの問題を解決したことにはなりません。
課題を抱えたままの利用者さんは他の介護士に同様の頼みごとをしたり、利用者さん自身で無理をしてでも行おうとされたりするかもしれません。

訪問時に介護サービス以外のことができなくても、どうすれば利用者さんの悩みを解決することができるのか一緒に考えることはできます。

例えば、問題解決の代替案を提案してみたり自費サービスをおすすめしたりすることは利用者さん、介護士の双方にとって有効な手段といえるでしょう。

利用者さんと介護士が互いに納得のできる形で問題を解決することができるといいですね。

 

訪問介護員だった私のエピソード

私が訪問介護をしていたときには、よく利用者さんから介護保険では対応しきれないことを頼まれることがありました。

例えば、エアコンフィルターを掃除して欲しい、庭の草取りをして欲しい、など主に生活援助の場面で相談されることが多かったように感じます。

利用者さんにとって、健全な日常生活を送る上で身の回りを整えたいと思うことは当然のことです。

できる限り利用者さんの支えになりたいと考えていた私にとっても、利用者さんからの切実なお願いをお断りするのは断腸の思いでした。
ときには事業所と利用者さんの間で板挟みになっているような困惑に陥ることもありました。

しかし、介護士として長く利用者さんを支えていくためには決まりを守る必要があります。

利用者さんには、本当はお手伝いしたい気持ちがあることをお伝えした上で下記のことをお話しするようにしていました。

・違反行為がバレてしまうと訪問することができなくなってしまうこと。
・自費サービスを使用していただくと、大体のことであれば対応可能なこと。

自費サービスで対応できることは多岐に渡るため、急を要さないことであれば大体の問題を解決することができます。

実際、生活支援サービスの中で庭の草取りや虫の駆除を頼まれた際に自費サービスをおすすめさせて頂いたことがあります。
無事に自費へのご理解をいただくことができ、利用者さんの庭を見違えるほどの状態にすることができました。

利用者さんから心底喜んでいただけたことで、私自身のわだかまりも解消することができたのを覚えています。

 

禁止事項を事業所からやるように指示されたときの対処法

残念ながら、日常業務において介護保険が適用されるかされないかの線引きを正しく行っていない事業所も多々あります。

「大した手間でなければ頼まれたらやってよい」というスタンスの事業所は、職員の管理・教育を怠っていると考えてよいでしょう。

介護士としての正しい価値観を伝えても理解が得られない場合、労基(労働基準監督署)に問題を相談してみることも選択肢のひとつです。
労基とは事業所が労働関係法令などを順守しているかどうかを監督する厚生労働省の出先機関を指します。
労基に相談することにより、事業所に違反行為に対する注意・是正の勧告が届き職場環境が改善される可能性があるのです。

ただし、現場の波風を立てたくない介護士にとって労基への相談は精神的負担の大きい場合があります。

どうしても業務内容の改善に埒があかない場合、最終手段として転職も視野に入れて行動することをおすすめします。

 

まとめ

まとめ

ここまで訪問介護士のできることとできないこと、できないことを頼まれた場合の対処法などについて説明してきましたがいかがでしたでしょうか。

訪問介護の仕事は利用者さんのお宅に介護士ひとりが伺い、サービスを提供します。

業務外のことを頼まれる場合が多い中、介護士に求められるものは臨機応変な対応力と利用者さんへの共感力といえるでしょう。

介護サービスにおける正しい判断のもと、利用者さんとの信頼関係を築いていけるといいですね。

この記事が、介護サービスの線引きができない現状にお困りの介護士さんが気持ちよく働くことができるお手伝いができると幸いです。

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この記事を書いた人:池田 典子 [Ikeda Noriko]  / 介護福祉士
著者:池田 典子 結婚を機にSEから介護職に転職し、10年間介護の現場に携わってきました。第二子を妊娠中に介護福祉士の資格を取得家事と子育てに追われながらも楽しく仕事を続けられたのは、利用者さんからの笑顔や感謝の言葉のおかげでした。
訪問介護や有料老人ホームでの勤務経験があり、様々な利用者さんやそのご家族の方と接してきました。様々な課題を乗り越えてきた経験を生かし、仕事に対する悩みを抱える介護士の方の助けとなる記事を書いていきたいと思います。